戸塚宿の富塚八幡宮に、松尾芭蕉の句碑があります。
「鎌倉をいきて出でけむ はつ松魚(かつお)」
この句の鰹が来た道は広重の『東海道五十三次、戸塚』に描かれている道標の「左り かまくら道」、つまり吉田橋から南に延びる鎌倉街道です。活きがよくて美味しそうな初鰹が目に浮かびます。
戸塚宿を出ると上り坂が続き、仮名手本忠臣蔵の名場面『道行旅路の花聟(みちゆきたびじのはなむこ)』のお軽・勘平(かんぺい)戸塚山中道行の場碑を見ることができます。遠景に富士山を望み、江戸から11里あまりも離れた戸塚は、いかにも旅の風情があって道行の場面にぴったりだったのでしょう。今も旅人の守り神の馬頭観世音(ばとうかんぜおん)、庚申塚(こうしんづか)などが多く残っています。
お軽・勘平の碑は現在の国道沿いにありますが、その先の諏訪神社へ向かって旧街道は国道から離れ、左にそれて静かな街並みに入って行きます。諏訪神社の裏手には昔大蛇が住んでいて、夕日に照らされた旅人の影が映るとそれを食べてしまったという伝説があり、このあたりは影取町(かげとりちょう)という地名です。道はここからずっと下り坂でかつては道場坂、現在は遊行寺坂と呼ばれ、下りきると藤沢宿です。
(道路文化研究所理事長 武部健一 『東海道絵図を歩く』より)
撮影スポット
富塚八幡宮にある芭蕉の句碑
国道1号沿いにあるお軽・勘平戸塚山中道行の場碑